2014年03月11日

PISAの意義と日本人生徒の課題?

近年、PISAの成績順位が発表されるたびに、「日本は〇〇位に後退した/回復した」と一喜一憂し、「脱ゆとりが成功」「中国・韓国・シンガポールに差を付けられた」と叫ばれる。これらの国々と比べられることに人一倍敏感な日本社会は、国を挙げてランキングアップを目指そうとしている。教育現場でもPISAを意識した教育手法を取り入れるところが増えてきた。ますますヒートアップするPISAランキング争いについて、少し考えてみたい。

20131204155159388_2011_OECD_PISA

 

自由経済・自由貿易・途上国援助の促進を図るOECD(経済協力開発機構)が、加盟各国の義務教育を終えた15歳の子供に対して行うテストProgramme for International Student Assessment, PISA(国際生徒評価のためのプログラム)は、2000年から三年おきに大規模に実施されている。回を重ねるごとに参加国・地域も増え、現在ではシンガポールや香港・上海、台湾や韓国などの東アジア地域が上位を占めるようになり、ランキングが発表されるたびにアジア各国関係者は一喜一憂し、その報道ぶりも加熱の一途をたどっている。しかし、以下のPISAの紹介映像でもわかるように、本来PISAは子供の学力や学習到達度を測るものではなく、その国において義務教育課程が、健全な市民生活を送る上でどれだけ機能しているか、を測るために作られたもの。義務教育を受けることにより、どれだけ社会にコミットでき、政府やメディアなどの権力による情報操作に騙されることなく、一人の市民として支障なく生活することができるか、ということに主眼が置かれている。

 




特定のカリキュラムの理解度や達成度を測る目的ではないテストであるから、日本のこれまでの一般的な学力テストとは全く異なる性質を持つ。何か公式を使って解を導いたり、作者の想いを汲むような問題は一切出てこない。PISAでは「リテラシー」という言葉がキーワードになっているように、与えられたテキストからどれだけ正確に情報を抽出できるか、が重要視される。そこでは、文章と表図が入り混じったテキストを読みこなし、さまざまな立場からの視点を同時に理解し、批評する技術が求められている。これだけ大規模なテストにもかかわらず、記述式回答問題も40%を占める。特定の文化に添うわけでなく世界中の子供たちに共通のテストをするわけであるから、出題テーマも実に多岐にわたり、ある国の子供たちにとっては全く身近ではなさそうなテーマは、やはりその国だけ正答率が極端に悪かったり、言葉や表現方法・文化の違いからくる差ではないかと思える極端な回答率の差も見受けられる。このテストの結果だけを見て、その国の”学力”だと判断したり、点数を他の国と比べてランキングに一喜一憂することには、あまり意味はないと言える。

では、このPISAから得られるものは何か?それは、各問題における正答・誤答・無回答の割合から見えてくる。ここから日本人生徒の傾向や問題点などさまざまな興味深い点も挙げられるだろう。

 

1) 記述式問題での無回答の極端な多さ

日本人生徒の最大の特徴は、記述式問題での無回答の多さ。参加国の中で群を抜いて無回答率が高い。PISA参加国平均値の倍くらいで、無回答率の低いアメリカや韓国の3〜5倍にも達する。一般的には「誤答率>無回答率」となるのだが、参加国中日本だけが極端に「誤答率<無回答率」となっている。これは日本人生徒が、自信が無いと答えを書かない傾向にあるのか、それとも、そもそも記述問題になると途端に苦手意識・抵抗感が表れてしまうのか。この記述式問題での無回答率の異常な高さは、日本の教育や社会が抱える構造的な問題と言えるだろう。

2) 選択式問題での正答率の高さ

一方、日本人生徒は正解を選択肢の中から選ぶ問題には滅法強い。そして選択式だと無回答率も低い。全体的に正答率・誤答率・無回答率が日本と似たような傾向を示すフランス・ドイツ・イタリアなどでは、選択式回答でも無回答が目立つのに比べて、日本では選択式になると無回答率は一気に下がる。

3) 評価・批評を求められる問題に弱い

与えられたテキストについて、文体や構成を評価したり、批判的に読む力が弱い。対立する意見からの妥協点や着地点を見出すような問題では、日本人生徒の無回答率が極端に高くなっている。恐らく今までの国語の授業などでは”文学作品”を作者の意図に沿って”鑑賞”することに主眼が置かれていたため、批評することについてあまり積極的ではなかったからかと思われる。

4) 授業への遅刻・欠席の点数への影響と、学校の評価

PISAでは、テスト前2週間以内の授業への遅刻・欠席割合も調べている。勤勉な日本人生徒はこれが極端に低く、2週間以内に遅刻をしたことがある生徒は9%(OECD平均35%)で、欠席をしたことがある生徒は3%(OECD平均18%)。そして、遅刻・欠席と平均点数の負の相関が他の国よりも極端に大きいことがわかった。遅刻をしたことがある生徒は遅刻をしなかった生徒より平均点が35点(OECD平均27点)下回り、欠席をしたことがある生徒はしなかった生徒よりも平均点が88点(OECD平均37点)も下回った。遅刻・欠席数は極端に低い一方、それらの生徒の点数は極端に平均値を下回る。何か大きな問題がそこに潜んでいるように思われる。

また、生徒が学校をどう思うかという質問では、日本人生徒の68%(OECD平均78%)が学校に満足していると答えている。しかし、「学校の状況は理想的だ」と答えた割合は31%(OECD平均61%)しかおらず、自分は満足しているがそれは必ずしも理想的ではない、という”何か奥歯に物が挟まった”ようなニュアンスが読み取れる。

 
生徒の学力や学校レベルに関係なく、これだけの世界的規模で行われるテストは現在PISAをおいて他になく、その公表結果からはさまざまなものを見出すことができるだろう。生徒や学校の個別データは公開されないが、OECD関係者の見解では、日本では回を重ねるごとに地域や生徒の育つ家庭の教育環境によって点数が両極に開きつつあるという。次回の調査は2015年。初めての2000年代生まれの子供たちになる。

 

2000年第一回PISA公開問題

http://www.ocec.ne.jp/linksyu/pisatimss/dokkairyoku.pdf

2009年PISAにおける日本人生徒の分析

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/12/07/1284443_03_1.pdf


posted by 岡昌之 at 22:12| Comment(0) | 教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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